美しい学術標本を作る・残す
〜 深海生物標本の保存についての田崎物産の取り組み 〜
田崎物産 代表 田崎 義勝
普段、間近で観察することが難しい深海生物について、人工樹脂封入標本を作製している。
人工樹脂封入標本は、以前からある生物標本の手法の1つです。当事業所では、出来るだけ
生きている時の色彩や形体が長期間保存されるよう、作製にあたり独自の技術を取り入れた。
1)深海生物を手軽に観察
人工樹脂封入標本は、保管や持ち運びが容易で、生物本体が強力に固定されているため、形体が
崩れることが極めて少ない。このため研究者の方以外にも生物標本の取り扱いに慣れていない一
般の方が保管し、観察することが可能です。
2)美しく、強固に
人工樹脂素材は、耐候性に優れ期待寿命が極めて長いとされている不飽和ポリエステルを使用し
ています。透明度も大変良いものです。ラベルについてもポリエステル紙を使用しており、劣化
因子を極力排除し長期保存に耐えうる強固な標本を目指しています。また、美しい標本作製には、
生物本体の鮮度が最も重要と考えています。深海生物は高水圧、低水温(5℃前後)に生息して
います。採取時には、急激な減圧、そして海面付近の高水温にさらされ、細胞レベルでストレス
が生じます。採取と同時に1個体ずつ詳細に欠損確認しながら薬品処理を行います。揺れる船上
でのこの作業は、なかなか大変です。調査採取等では、戸田漁協関係者方々の技術支援を受けて
いますこと、厚く感謝申し上げます。
3)標本作製の思い
現在、地球規模で環境破壊が進んでいます。それに伴い多くの生物種が地球上から姿を消してい
ます。これは、恐竜絶滅期の1000倍以上の速度とも言われています。深海生物についても例外で
はないはずです。特に深海生物は環境変化に弱く、また、生息調査などが困難なため、個体数の
減少に気付かれることもなく姿を消す状態にあると思われます。たとえ個体数の減少に気付いた
としても飼育や繁殖が技術的に困難なため、人工的環境下において保護されることもないでしょう。
調査採取を行っている駿河湾は、都市、工業地帯と隣接しており、河川流入も多い海域です。深海
生物保護が出来れば一番良いのですが、現実的ではありません。これらのことから、現存する生物
種を正確なラベル付記し、出来るだけ生きている時の状態を保った標本として、後世まで残そうと
考えました。この取り組みの評価は、どのようなものになるか分かりません。ただ、この時代に
このようなことを大真面目に考えて標本作製、保存を試みた人間がいたことは事実です。
「群馬県立自然史博物館 第40回企画展図録原稿(原版)」
フタスジナメハダカ / 群馬県立自然史博物館第40回企画展にて展示
Tasakiコレクション(永久保存製品)
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