駿河湾周辺の地質調査

  駿河湾深海領域から産出される堆積物と陸部堆積物の関連性を知る上で周辺地域の
  地質調査を行なっています。その過程でこれまでに確認されていない鉱物類の採取
  があります。

  1.丹沢梅花石(仮称) / 神奈川県北西部



  成因としては1500万年前の海底火山の活動によるものです。溶岩が固まる際に
  火山ガス(水蒸気、二酸化炭素等)が抜けて空隙ができ後に再度マグマが入り込み
  石英、沸石等を結晶化して花のような形状になったものです。他の地域の梅花石の
  花状と比較するとより実際の白梅に近い色、大きさ、形状のものが極稀ですが産出
  されます。他産の梅花石との比較にて成因、形質が特異であり新産地と考えます。



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  極限られた地区より産出されます。これまでに産出報告がないようで名称も仮称と
  して私が命名しました。鑑賞石としても貴重な岐阜県根尾谷の菊花石、および梅花
  石とされる鉱物が国内の数個所で産出されますが丹沢梅花石の成因は根尾谷の菊花
  石に近いものと考えます。この梅花石が産出する神奈川県北西部はフィリピン海
  プレート、ユーラシアプレート、北米プレートが接し活断層が多数存在します。
  この地域の地下深くで過去にどのような地殻変動があったのかを知る上で学術的に
  貴重な鉱物です。



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  母岩、および花状の形質は多様です。



  香り立つ白梅輪の咲く如し

  記載日:2022年9月2日


  2.丹沢丸玉石(仮称)

 初めて採取した丹沢丸玉石。(第1号石)



  丹沢梅花石と同地区内の流水のある数十メートル範囲のみにて産出されます。これま
  でに産出報告がないようで名称も仮称として私が命名しました。真球度は極めて高く、
  目視で比率偏りが確認できないレベルです。成因は丹沢梅花石の花部分の白色石が流
  水の浸食で外れ母岩表面にポットホールを形成することによると考えます。

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  母岩から外れる直前の花部分。



  上写真はイメージです。。。石の窪みに丸玉石を入れてみました。たぶん母岩から外れた
  花部分はこのような状態で流水により回転運動をして研磨され球体になるものと思います。
  花部分の白色石は硬質ですからこの真球度まで研磨されるためにはかなりの高速回転をし
  ていると思います。そしてなにかのタイミングで母岩から離脱し周辺に散在すると結論し
  ます。世界的に見ても珍しい現象でこの生成過程は初めて確認されたのではと思います。
  野山に咲く本当の花のように散ったあとには実がなり離れて行くかのようです。実となる
  までどのくらいの年月を要するのでしょうか。現地で実際に回転運動を確認したいのです
  が産出状況からすればそれを見つけ出すことは極めて困難です。今も人知れずこの産地の
  どこかで高速回転をしている丸玉石があるのでしょう。

  記載日:2022年9月12日



  母岩から外れる直前の花状ですが母岩が小さいためポットホールを形成することはできな
  いと思われるものです。

 

  オレンジ色の丸玉石を見つけました。しかし発見時、右写真のように半分に割れていまし
  た。中心部には丸い窪みがあります。丹沢梅花石の花部分の中心部も比較的軟質で窪みが
  あります。この丸玉石の窪みは割れた後に軟質部分が離脱したものと考えます。この類似
  からも丸玉石が丹沢梅花石の花部分由来であることが推測できます。

 

  半分に割れた白色の丸玉石。



  扁球体をした丸玉石の形成途中と思われる石です。母岩から外れポットホール内で回転
  運動をして研磨されましたが球体になる前に母岩から離脱となったものと思います。



  丹沢梅花石の花部分と丸玉石が同様の鉱物であるかは機器を用いた組成分析が正確で
  すが簡易的手法として両鉱物の比重を比較することも有効と思います。

  (付記1)
  最初にこの丸玉石を見つけた時、白色で極めて真球に近いため人工物と思い観察後に
  その場に置き帰宅しました。しかし帰宅後どうしても気になり、不思議なことですが
  石が呼ぶような気がして仕方なく、かなり遅い時間でしたがその日に再度現地へ戻り
  ました。置いた地点の周辺地形に目印はなく、速い流水の水中であるため再発見の確
  率は極めて低いと思いましたが再度揚石できました。これまでに自然物を様々採集し
  ていますがこのようなことは初めてです。


  3.丹沢石化種子(仮称) / 神奈川県北西部

(表面) 

(裏面)

  極限られた地区より産出されます。石質で硬質です。裏面に穴があり内部は空洞です。
  これまでに産出報告がないようで名称も仮称として私が命名しました。駿河湾にての深
  海調査の際に海底堆積物として産出する石化種子と形質が酷似しています。



  極希産で現地調査を数十回行ないましたが2個採集のみです。

  記載日:2022年9月27日

(表面) (裏面)

(上面)

  石化したクルミの核果(1)

  石質で硬質です。両方の縫合線上に2つ穴が空いておりこれはアカネズミの食痕
  と思われます。ヒメグルミの特徴に似る箇所もありますが特定は難しいように思
  います。石質の状態から珪化木に近いものと考えます。もし石質が実際であれば
  珪化実(けいかじつ)と表記したいものです。

  本当に石質なのでしょうか?

  ― 実 験 ―

(写真1)

  (方法)
  十分乾燥させて純水へ入れました。

  (結果)
  沈降しました。(写真1)参照

  (結論)
  密度は1g/cm3以上であり石質である可能性を示唆します。
  (オニグルミ木材気乾比重0.53)



  石化したクルミの核果(2)

  石質で硬質です。オニグルミと思われるものです。上記と同様に2つ穴があり
  アカネズミの食痕と思われます。駿河湾の深海領域から堆積物として産出され
  る石化したクルミにはアカネズミの食痕を示すものはありません。アカネズミ
  は日本固有種で北海道から九州までの全域に生息しています。近縁種も含め北
  方系のネズミ種で伊豆大島、三宅島には生息しますが以南の島嶼には生息しま
  せん。駿河湾の石化したクルミはアカネズミのいない大地に生育していたので
  しょうか。

  記載日:2022年10月2日



  石化したクルミの核果(3)(4)

  同日、同地点にてほぼ同サイズの石化クルミ、2個を採集しました。左は完全
  体、右はアカネズミの食痕があり中味も空洞です。現地での採集時、2つ手に
  した時、わずかに重量的な違和感がありました。

 

  計量。。。左が4g、右が5gでした。同サイズであれば完全体である左の方が
  重量があるはずですが逆です。これは右の石化クルミの方が年代が古く鉱物置換
  が進行し、より石化しているため密度が大きいことによるものと考えます。

  記載日:2023年9月11日



  石化した桃の核果(1)

  石質で硬質です。2015年に中国南西部の昆明市にて世界最古とされる
  260万年前の桃の核果化石が発掘されています。日本では縄文時代前期、
  約6000年前の遺跡からのものが最古とされていますがこれは中国から
  伝わったものとされています。日本では野生種が自生していたことは確認
  されていません。年代測定等の慎重な調査が必要ですが石質の状態からす
  ればかなり古いものと思います。世界最古?。。。丹沢桃(仮称)と命名。
  十分乾燥させて純水へ入れたところ沈降しました。

  記載日:2023年3月14日


  (疑問)
  なぜ珪化木はあるのに珪化実はないのか?

  (仮説)
  樹木は軟質であるため石質となった場合、気付きやすい。
  種子は硬質であるため石質となった場合、気付きにくい。

  石化種子はこれまで見逃されていただけで自然界に多く存在するものなの
  かも知れません。クルミなどの核果や種子は石のように硬いが石ではない
  という固定観念により石質でも気付かない可能性があります。もし野外で
  これらを見つけたら石質を疑ってみて下さい。私は食べてみて気付きまし
  た。

  記載日:2023年8月23日


  4.コバルトリッチクラスト / 神奈川県北西部

(表面)

(裏面)



  磁石に強力につきます。陸部での採取は世界的にも初めてと思います。過去のプレート
  移動を知る上で学術的に貴重な鉱物です。コバルトリッチクラストであることが実際で
  あれば神奈川県北西部の比較的浅い地下にこのような海洋鉱物資源の堆積層が存在する
  ことを示唆するものです。丹沢山地にはトラフ充填堆積物の分布域が存在しますからそ
  の域内のどこかにそのような堆積層が存在するものと思います。
  現在、世界的にレアメタルの需要は拡大しておりコバルト相場も高騰しています。スマ
  ートフォン1台のバッテリ−に約8gのコバルトが必要とされます。このコバルト塊で
  約20台分、そして採掘コストは0円です。日本国内の陸部での採掘は極めて有用です。

(一部拡大)

  海底で付着したと思われる礫が確認できます。この礫は磁石につきません。写真下の
  白色片はカルシウム成分で貝類等の生物痕ではないかと考えます。

  記載日:2022年9月11日


  5.マンガン団塊 / 神奈川県北西部

(表面) (裏面)

  マンガン団塊の一部欠けたものと思います。表面はコバルトに覆われているようで磁石
  に強力につきます。裏面の形質は駿河湾の深海領域から産出されるマンガンと思われる
  堆積物に酷似します。結論は機器を用いた組成分析が必須ですので更に良質な試料を採
  取したいと考えます。

  記載日:2022年10月1日

  (付記2)
  この鉱物を採取した日は朝5時に現地調査を開始しました。天候も良く眼を皿のようにして
  海洋堆積物類、何かあるかと砂粒レベルで探し歩きましたが何も見つかりません。昼過ぎ、
  そして夕方陽が沈み徐々に薄暗くなり、今日はダメと腰を下ろし右手をついた指先にこれが
  ありました。不思議でなりません。この日持ち帰った鉱物はこの1つだけです。


  6.燐光石 / 静岡県伊豆市

 

(燐光部分拡大)



  動画にて燐光が確認出来ます。↑室内灯を消すなどして暗所にてご覧下さい。再生速度を
  0.25倍に設定しますとより鮮明に残光状態が確認出来ます。是非、お試し下さい。

  石英質の岩石にわずかに白色の鉱物が付着しています。短波長の光を照射したところ蛍光
  は弱いが消灯後2〜3秒間、緑色燐光を示します。天城山山中、人里離れた沢沿いの崖中
  腹に50cm範囲ほどですがこの鉱物を含む堆積層が露出しています。燐光はごく微弱で
  すからこの鉱物を採取するには月明かりのない夜、崖に短波長を照射することが最適です。
  私が最初にこの鉱物を見つけた時も小雨降る夜中1時頃でした。白色部分は海洋堆積物由
  来で希土類が含有、および新鉱物の可能性もあるように思います。この電子物性は半導体
  に応用できる有用なものと考えます。

  記載日:2024年4月5日

(丸石:写真中央)

(磁石につく石:左、磁石に付かない石:右)

  燐光石を産出する堆積層に含まれる丸石。

  堆積層には主に鋭角に切断された石英質の石が含まれますがわずかに流水による浸食作用
  で形成されたと思われる小さい丸石が混じります。堆積層の下部は残留磁気により磁石に
  付く火成岩と付かない火成岩の岩盤となります。これらのことからこの丸石は伊豆半島形
  成以前、はるか南方の陸部にあり河川、または海岸の流水による浸食作用にて形成された
  後、海中へ沈み、深海底で海洋堆積物に混入、地中へ埋没、フィリピン海プレートととも
  に北上、火山活動が生じ噴出物、および石英質の石も堆積物に混入、ユーラシアプレート
  に阻まれ噴出物の密度が小さいため隆起、現在、伊豆半島山間部に存在するものと推測し
  ます。簡潔にまとめますと↓

  @ フィリピン海プレート形成以前、はるか南方に陸部が存在した。
  A 伊豆半島形成は火山活動とユーラシアプレートに阻まれた隆起による。

  記載日:2024年4月10日


  7.菖蒲沢海岸自然金 / 静岡県河津町

(菖蒲沢海岸)

  菖蒲沢海岸は相模湾に面した東伊豆の海岸でフィリピン海プレート上となります。上写
  真の右端の崖が波により浸食され崩落しています。この部分に自然金を含む石英が堆
  積しており海岸にはこの崩落箇所由来の石英塊が散在しています。菖蒲沢海岸では以
  前より石英脈中の暗黒色(銀黒)に自然金の微細な粒が存在することが知られています。

 (拡大)

  上写真はこれまでに知られている産出状態です。海岸のすべてでほぼ均一に産出します。
  下写真は極稀な産出ですが海水により腐食した銀黒表面を自然金が覆うように発現した
  状態です。不思議なことですがこの状態での産出は菖蒲沢海岸の極限られた範囲に集中
  します。明確な理由は不明ですが海岸に打ち寄せる波の状態、あるいは湧水によるもの
  と考えます。このような状態での自然金の産出報告は世界的に見てもないように思いま
  す。金粉をまぶしたように美しく輝きます。菖蒲沢石(しょうぶざわいし)仮称。

 (拡大)

 (拡大)

 (拡大)

(断面写真)

  腐食銀黒表面の自然金(黄丸)
  岩石内部銀黒の自然金(赤丸)

  記載日:2021年4月19日

  (付記3)
  まだ菖蒲沢海岸での調査を初めたばかりの頃のことです。その日はかなり潮が引いて
  普段は海中にある一抱えほどもある大きな石英塊が現れました。その石英塊には銀黒
  があり目を疑うほどの自然金が無数に発現していました。しかしあまりに重いため海
  中から海岸へ揚げるのがやっとの状態、駐車場まで1人ではとても運べないため海岸
  の片隅に埋めました。多分まだ埋まっています。もし見つけてもそのままにしておい
  て下さい。


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